一級建築士 【代表岩本が語る 不動産再生のコツ】
渋谷区で小規模ホテルはもう作れない?【後編】
―無人ホテル開発の転換期―

Column

前編では、2006年の「ラブホテル建築規制条例」によるホテル開発の冬の時代から、2018年の「旅館業法の大幅緩和」と「民泊新法による規制強化」をきっかけに小規模な無人ホテルが急増した背景を振り返りました。後編では、今年7月1日に施行された渋谷区の条例改正による「規制の再強化」の実態についてお話しします。

渋谷区の公開情報等によると、2018年以降に小規模な無人ホテルが急増した一方で、施設の管理体制や宿泊客のマナーをめぐる問題、夜間の騒音やゴミの不適切処理といった生活環境上のトラブルが地域課題として挙げられるようになりました。渋谷区が今年7月1日より再び旅館業のルールの厳格化に舵を切った背景には、地域住民の住環境保護と安全管理の徹底を求める社会的要請があったと考えられます。

今回の改正で最も大きな変更点の一つが、新規の許可申請における「スタッフ常駐の原則義務化」です。さらに、宿泊客の利用スペースと区別された常駐場所の設置や、客室外でスタッフが利用できるトイレの確保など、厳格な構造・設備基準が設けられました。マンション1室や狭小戸建てなどにおいて、こうしたスペースを確保することは物理的にもコスト的にも現実的ではありません。これにより、投資目的の「マンション1室を活用した無人ホテル」への新規参入は極めて困難になったと言えるでしょう。

なお、今年6月30日以前に許可申請済みの既存施設については、スタッフ常駐義務の対象外とされており、従来の基準のもとで運営を継続することが可能です。ただし、近隣住民から見えやすい位置への「緊急連絡先の掲示」などが新たに義務化され、これまで以上に適正な管理運営が強く求められるフェーズに入っています。(表1)

▲表1
▲表1

渋谷区におけるホテルルールの変遷を振り返ると、街の風紀維持(2006年)、インバウンド需要への対応(2018年)、住環境保護と適正な管理運営の推進(2026年)と、時代ごとの社会的要請に対応してきた歴史が見えてきます。かつてのように「マンション1室を無人ホテルにして収益化する」手法のハードルが格段に上がった今、渋谷区で通年稼働を前提としたホテル事業を展開するには、適正な管理体制と設備を備えた中規模以上のホテル開発が主流となっていくでしょう。

ホテル開発や再生事業を中長期的に成功させるためには、建物の用途変更に関わる建築基準法に加えて、旅館業法や自治体ごとの独自条例など関連法規を熟知し、数年先の規制動向まで見据えてプロジェクトを進める必要があります。

▲今年7月に開業した「SHIFT HOTEL SHIBUYA JINNAN」
▲今年7月に開業した「SHIFT HOTEL SHIBUYA JINNAN」
岩本  裕
一級建築士

1973生まれ、東京都市大学(旧武蔵工業大学)工学部建築学科卒業。新卒で入社した五洋建設では現場監督とアメフト選手として活動。その後マンションデベロッパーにて土地仕入から企画販売を一貫して経験。リーマンショックを契機に、不景気に強いスモールオフィスビジネスに着目し、2009年8月に当社設立、代表取締役就任。一級建築士の知識と運営経験を活かし、東京都心部において古ビルを有効活用する事で多くの不動産を再生。その実績は累計100棟に及ぶ(2024年7月現在)。2023年6月に東証グロース市場へ上場し、新たなステージで挑戦を続けている。趣味はパワーリフティング(ベンチプレスはMAX160kg)。

※本コラムは一部専門的な内容を抜粋・簡略化して記載しています。

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