一級建築士 【代表岩本が語る 不動産再生のコツ】
「新築 vs 既存建物活用」の議論
Column
近年、建築費の高騰を背景に「既存建物の活用」が注目されています。日本では、欧米と比べて既存建物の活用率が極めて低い傾向にあります。その背景には、地震国ゆえに建築基準法の度重なる改正や、防災上の優位性を持つ新築大規模開発の優遇策として「容積率の割増」等の政策がありました。その結果、新築・大規模開発が長年にわたり促進されたと考えられます。
しかし東京都心部では、昭和40年代に建てられた築60年超の建築物が多く現存している事実もあります。
かつては築30年程度で築古とされていましたが、耐震補強や修繕技術の向上により適正に管理することで、建物の寿命は飛躍的に延びています。法定耐用年数にとらわれず、建物の寿命を見直すべき時が来ているのではないでしょうか。

少しずつですが、既存建物の活用を推進する動きも出てきています。2019年の建築基準法改正では、用途変更の届出が不要な床面積の上限が100㎡から200㎡へと緩和されました。これにより、店舗やホテルなどの用途変更がより柔軟に行えるようになり、既存建物の利用が現実的な選択肢として再評価されています。加えて、建物の長期保存に関する技術の進歩や建築費高騰によるコスト意識の高まりが相まって、経済的な観点からも既存建物の活用を選ぶオーナーが増加しています。
環境面においても、これまでは完成した建物の省エネルギー性能など運営効率が重視され、既存建物は新築より不利とされてきましたが、国土交通省では大規模な新築計画において既存建物解体を含めたCO₂排出量の算出を義務づける方向で検討が進んでおり、環境面からも既存建物の活用を後押しする動きが加速しています。

今後さらに既存建物の活用を推進するには、用途変更の届出が不要な面積の更なる拡大、法定耐用年数の延長、固定資産税等の優遇措置、耐震補強補助の拡充、普通借家法の見直しなどの施策が求められます。(表1)
今こそ、大規模再開発一辺倒であった日本の街づくりを見直す時ではないでしょうか。
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